罪と言う人工物
「野良とは、それだけで罪なのだろうか。
 生まれてすぐに、死罪が確定するほどに」




 先日、九龍から上のようなメールが送られてきた。
 会社で生まれた野良猫の子供が、保健所に連れて行かれることになったらしい。
 保健所送りと言えば、その動物にとっての死刑宣告とも言える。
 中にはそこから里親に送り出されるケースもあるようだが、ほとんど少数と言っていいだろう。
 人の多い会社内で生まれてしまったばかりに、その子猫たちは保健所という死刑台に送られる形になってしまった。
 もし人気のない場所で生まれたのなら、生き延びる可能性もあったろうに。


 さて、では本題に入ろう。
 野良とは、それ自体が罪となるのだろうか?


 答えはNoだ。
 なぜなら、罪とは(少なくとも日本では)以下の6つをのみ指し示すからだ。


1)神の禁忌をおかし、その報いを受けるべき凶事
2)社会の規範・風俗・道徳などに反した、悪行・過失・災禍など
3)刑罰を科せられる不正行為
4)仏教・キリスト教で、その教法を破る行為、或いはその人の背負っている業罪
5)悪いことや行いに対する自覚、もしくは責任
6)無慈悲なこと、思いやりのないこと


 神の報いなど人間が知るはずもないし、社会の規範や風俗・道徳などは人間にしか当てはまらない。
 勿論、刑罰も人間相手だ。
 動物は宗教など持たないだろうし、自分が悪いことをしたという自覚など持っているとも思えない(思えない、だけで、実際はどうか分からないが)。
 無慈悲で思いやりのない、というのは何を言えばいいのか曖昧だが、上記の例と同じく人間の感情をそのまま他の動物に当てはめるのは難しいだろう。
 つまり、野良であることに罪などない。
 いや、罪と言うことが事実上出来ない、と言った方が正確か。
 そもそも、タイトルにもあるとおり、「罪」とは人間によって作られた人工物(artifact)だ。
 宗教によっては上記1にあるとおり、神から見た「罪」があると考えている人もいるだろうが、さっきも言った通りそんなものが仮にいたとして、人間が知りうるはずがない。
 神の意志を人間が知るというなら、それはただの傲慢だ。
 頭を丸め、出家することをお勧めする。


 つまり、2〜6に該当するものが事実上「罪」の全てであり、そしてそれは本来人間にのみ当てはまる概念なのだ。
 繰り返すが、5や6に関しては人間以外の動物がそう言った複雑な概念を持っていないことを前提として話を進める。
 霊長類や一部ほ乳類が複雑な感情を有することを証明しようとする学者もいるが、話がややこしくなるのでそれについては考えないことにする。


 さて、では一体何故野良猫や野良犬はあたかも「罪」があるかのように殺されてしまうのだろうか?
 それは、上記に上げた罪の2に抵触するからだ。


 おいおい、今さっき「罪と言うことが事実上出来ない」って言ったじゃないか、と思われるかも知れないが、実はほんの一部の記述だけが、これを例外たらしめることが出来てしまうのだ。
 それは、2の末尾にある「災禍」。
 災禍、とは、広辞苑によれば「(地震・台風・火事などによる)わざわい」とされている。
 主に天災によるものを災禍というようだが、あくまで「などによる」災いであって、人間及びその所有物に害をなすなら実際は何でも良い。
 とすれば、仮に野良の動物を人間にとっての「災禍」であると見なすとすれば・・・それは、「罪」となってしまうのだ。
 2の意味では「社会の規範・風俗・道徳などに反した」と書かれている。
 これも「などに」と言う表記になっており、かなり表現が曖昧になっている。
 その為、曖昧さを都合良く解釈すれば、野良犬も野良猫も、全て人間社会に害成す「災禍」であり「罪」と言えてしまうのだ。
 こじつけだと言われるかも知れないが、実際このようなこじつけをしないと、俺達人類は全て、彼ら野良動物など取るに足らないほどの巨大な罪を背負わなければならないことになる。


   それは、今から行う2つめの質問による。
 すなわち、「野良犬や野良猫を保健所に連れて行くのは、罪か?」。


 これは、人それぞれによって答えが異なる。
 ただし、恐らくはほとんどの人にとって、この問いは強制的にこうなる。
 つまり、Yes。

 まずは6を見て欲しい。
 罪とは、「無慈悲なこと、思いやりのないこと」でもある。
 もし、野良動物を保健所に引き渡す自分の姿を見て、周囲が「あの人は無慈悲だ」と思ったなら、それは全て「罪」であると言えるのだ。
 勿論、3に抵触する刑事罰などは与えられない。
 だが、その行為そのものが、周囲の人間によって既に「罪」と確定されてしまっているのだ。
 更に、もし保健所に引き渡す自分自身が、その行いを「可哀想なことをしたなぁ」「悪いことをしたなぁ」と思えば、その時点で自ら罪を認めたことになる。
 ふとした拍子にそれを思っただけでも、最早手遅れ。
 あなたが命を差し出したその手は、既に罪にまみれているのだ。

 しかし、野良犬や野良猫が生まれながらに罪を持っているのであれば、自らの行為は罪ではあるまい。
 自分の身に降りかかる災禍に対し、それを払いのけることは罪にはならないのではないか?
 自分たちの家に勝手に上がり込むから、自分たちの領域を勝手に荒らすから、だから排除しなければならない。
 そうだ、降りかかる災禍を払っているだけなのだから、それは「罪」ではない。
 蚊やハエをたたきつぶすのも、殺鼠剤をまくのも、カラスを処分するのも、全て災禍から身を守るため。
 だから、罪じゃない。


 良くできた免罪符だ。


 もちろん、俺もその免罪符を堂々と使う。
 何か悪いことだろうか?
 罪となる物を、同じ罪で追い払ったのだ。
 どうせ野良猫だって、そのままそこらに放っておいたらかなりの確率で飢え死にするんだ。
 車に轢かれて死ぬかも知れんぞ?
 或いは同じ野良犬に喰い殺されるかも知れない。
 それなら保健所に連れて行かれるのだって、その運命の中の一つの選択肢に過ぎないじゃないか?


 自分に罪がないと言い聞かせるために、都合の良い言い訳を考え続ける。
 罪悪感に苛まれる。
 実はその瞬間こそが、自分の「罪」が確定した瞬間とも知らずに。


 最初の方で述べたことの繰り返しだが、罪とは人工物だ。
 別に最初から「〜は罪」と決まっていたわけではない。
 つまり、誰かが指摘しない限り、罪というのは確定しないのだ。
 現代社会では明文化された「罪」が山ほどあるが、明文化されないそれ以外の物は、本来人間社会に於いては罪でも何でもないはずなのだ。
 辞書的な意味を上に6個も挙げたが、3以外の物など所詮ただの「例」に過ぎない。
 「こう言うとき、ヒトは罪と感じるよね」という抽象的な例を示しているに過ぎないのだ。
 だから、本来文中で挙げたような質問、すなわち「野良動物は生存そのものが罪か」「野良動物を殺すことは罪か」という質問に対して、それが「罪である」とは言えないし、言う必要もないのだ。
 
 だが、ヒトは小動物を殺すとき、或いは殺すことに荷担するとき、かなりの割合で「罪悪感」を覚える。
 罪悪感とは、すなわち「罪悪を犯したという気持ちになる」と言うことだ。
 さっき「自分の「罪」が確定した瞬間」と言ったが、これは勿論刑事罰がかかる罪ではなく、「自ら罪を認めた」という以上の意味を持たない。
 上に挙げたように、罪は罪と感じればその時点で罪なのである。
 これは災禍であると感じれば、それは罪。
 自分が悪いことをしたと思えば、それも罪。
 明文化されない罪とは、その程度の曖昧なものでしかないのだ。


 冒頭の野良の話の他にも、害獣・益鳥、どれも人間の勝手な範疇による区分だ。
 そして、人間はそれをすることを許された。
 いや、それをする術を身につけた。
 ならば、何ら恥じることはない。
 堂々と彼らを使役し、或いは排除して、ヒトに住みよい環境を作ればいいのだ。




 心の中に沈殿し続ける「罪悪感」を、一生涯背負いながら。
コメント
この記事へのコメント
初めまして。MCメンバーのAR1と申します。

冒頭の「野良」というワードに興味を持ちまして、目を通させていただきました。
感想というか、新たに振って湧いた疑問が「『野良』と『野生』は違うのかな・・・?」と。

マスコミなんかは、語呂のよさから『野良犬』『野良猫』くらいしか使いませんけれども、ひょっとしなくても『野良狸』や『野良猿』だっている訳で。
人が飼っていた動物が野生化してしまうと、語呂の悪い動物は『野生の動物』にカテゴライズされてしまいますが、やはり彼らは(人間視点では)『野良』な訳なんですよね・・・

最後に余談。
どこかで見たことのあるブログだなあ……と思っていたんですよ。正確には、どこかで見たことのある記事だなあ、と。
・・・えーとですね、『正夢』で見ましたorz
いつかどこかで、なんとなーくみた覚えが・・・気のせいかなあ。
でも、過去にもあった『正夢と気づいた瞬間の、背筋がゾクゾクするフラッシュバック』が直撃したんですよねぇ。
まあ、どうでもいいことですが(笑)
2006/05/18(木) 01:52:37 | URL | AR1 #-[ 編集]
レス
>AR1さん
 や、どうも。
 MCメンバーいち提出の遅いClownです○∠\_

 調べてみると、野良というのは「野原」や「原野」以上の意味を持たないそうです。
 つまり、そこら辺に居る飼われている動物以外は全て野良と言うことになります。
 野生とほぼ同義ですね。
 人が飼っていた動物が捨てられた物は、通常「捨て○○」という名称が付きますが、これも野良と言ってしまって良いような気がします。

 しかし、正夢ですか('Д`;)
 俺もたまに「あれ、この記事って何処かで読んだことがあるような気がする・・・」というデジャヴは感じたことがありますが、あんまりはっきりしたのはないです。
 や、夢にまで出てくるとは光栄です(笑)。
2006/05/18(木) 23:55:13 | URL | Clown #88EAcY5M[ 編集]
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さぁて・・・。遅くなったが行ってみんべぇ。■ 浮浪者は死罪か否か  ・・・コレの続きな。何か、関連トラックバックが三つも入った。それも紹介しよう。◎全ての人が
2006/05/30(火) 16:48:47 | 魔城 九龍